週末、風呂にも入らずに加齢臭を撒き散らしながら『レッド・デッド・リデンプション2』に没頭していた俺は、アメリカ西部の男になりきりって考えていた。

「調子に乗ってゲームを進めちまっているが……。ふん、どうしたもんかな。それなりに方向性を決めてブログを書かないと、のちのち面倒なことになるかもしれないぜ?」

ブーツの踵に素早くマッチをこすりつけ、オレンジ色の小さな炎を灯す。生まれたばかりの頼りないゆらめきを風から守りながら、折れ曲がったシケモクにそっと火を移した。シケモクの先端からにじみ出るマルボロの煙が、いまいましく目を撫でる。

「ふぅ……。さて、どうしたもんかな」

吐き出した紫煙は、すぐに空気に溶けた。なぜかそれに満足し、男は傍らのスキットルに手を伸ばす。中でたゆたったワイルドターキーが、「ぽちょん」とかわいい音を立てた。……こんなもっともらしいことを、タバコも吸わない俺が妄想で書いていることが何より気持ち悪いな……と思った。

いやしかし、記事の方向性を決めることは大事なことなのだよ。

単純に、ストーリーを追いかけるだけの記事……というものも存在する。映画の要点をかいつまんで書いて、読者に“観たつもりになってもらう”ことを目的とした記事に近いかもしれない。『レッド・デッド・リデンプション』は、開拓時代末期を舞台にしたハードボイルドなドラマが展開するので、そういったものが読みたい層にはある程度訴求できるかもしれん。

でも、それではつまらん。

せっかく、究極と言えるほどの自由度を誇るゲームなのだ。むしろメインストーリーは脇に追いやって、狩猟とか、採取とか、銃撃戦とか、ケンカとか、賞金稼ぎとか、色恋沙汰とかとか……とにかくこの世界観の一部になり、好き放題に生活する様子を文字にできれば、それでいいんじゃなかろうか!?

「うん、そうだそうだ! その方向性にしよう!」

ストンと腑に落ちた俺は、「よっしゃよっしゃ」と満足してソファーにふんぞり返った。と同時に、

「……よく考えてみたら俺のプレイ日記って、すべてそういうモノだった気がするな」

ということに気づいてしまったが、「ま、いいや」と忘れることにした。

というわけで、ゲームの仕様上、多少はストーリーのことも書くかもしれないが、基本的には好き放題やります。

さて。

ゲームは最初、印象的な雪の世界を舞台に進行する。雪の降りっぷりたるや、「いいですわねぇ……。たまの雪も、風情があって……」なんてウットリするレベルではなく、ホワイトアウトして命に影響を及ぼすのでは……というヒデェ状況である。

ここでふと、メキシコに国境を隣接するアメリカ西部の風景が脳裏をかすめる。俺のイメージにあるのは、

乾燥した空気、どこまでも茶色の大地、サボテン、タンブルウィード、コロナビール……。

……まあこれ、よく考えると完全にメキシコのそれなのだが、脳ミソのどこをどう探っても、“アメリカ西部=雪”とはならない。そう訝しんで調べたところ、アメリカでも有数のスキーリゾートがあるコロラド州はまさに大陸の西部に位置し、乾燥した砂漠、渓谷、そして雪を冠するロッキー山脈が名物らしい。

「ナルホド、納得」

誰にともなくつぶやいて、俺はゲームの世界に没頭していった。

しかしそれにしても、このゲームのグラフィックはスゴい。

キャラクターがアップになる会話シーンが美しいのはもちろんなのだが、テキトーにそこらの風景を切り取ったものに数字を付けたら、それだけで立派な風景写真のカレンダーとして成り立つレベルに完成されているのである。

俺がとくに驚いたのが、雪の描写だ。

この世には雪原が舞台になっているゲームが山ほどあり、ハードが進化するたびに“よりリアルな雪”が表現されてきたが、『レッド・デッド・リデンプション2』ほど極まったものは、いまだかつて見たことがないわ。

ちょっとした事件を解決した翌朝、外に出ると、あれだけ吹き荒れていたブリザードがやんでいた。目の前に広がっていたのは、すべての音を吸い込んでしまいそうな、深い雪の世界である。

「こんなに積もってしまったら、関東平野は完全にマヒ状態になるだろうな」

そんなことを考えながら、雪の中に歩を進める。

自分が歩いた後にできた足跡を見て、俺は感嘆の声を発した。

「うわ……! すげえなこの足跡www リアルすぎwww」

そうなのだ。1歩踏みしめるごとにできる足跡が驚異的にリアルで、ついつい見入ってしまうのである。あまりにもリアルで、コントローラーを持つ手に新雪の軽さと冷たさが伝わってくる感じすらする。

「こりゃたまらんわ……。美しすぎる……」

俺はさらに、何歩か歩いてみた。

誰も踏み入っていなかった雪原に、俺の足跡だけが刻印された。

「コレコレw 手つかずの新雪に足跡を付ける、征服感が快感なんだよなwww」

ついつい、足に力が入る。

「わは! わはははは!!」

気が付けば、俺はキャンプ地のまわりに広がる雪原に飛び出して、

「わはっ!!! わはは!!! わはははははははあああああ!!!!」

とバカ笑いしながら足跡を付けまくっていた。も、もう止まらねえ! ダッチにもホゼアにもピアソンにも、この新雪に足跡はつけさせねえぞ!! わは!! わはははは!!!

そして出来上がった足跡の原を見て、俺はたいへん満足した。

「ここ、俺の土地ぃ!! だーれも入れないぃー!!」

新雪につけた足跡を自慢げに友だちどもに見せびらかしていた、小学生時代の自分の姿がフラッシュバックした。そして、

スタミナのレベルが、ひとつ上がった。

『レッド・デッド・リデンプション2』に、無駄な行動はないのだ。

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