その日、俺は馬にまたがって、見知らぬ道を気持ちよく走っていた。

「あー……気持ちいい~~……。まるで、浦所街道を軽く流してから関越に乗り、そのまま群馬までノンストップで飛ばしているような……」

バイクを新調したばかりなので、こういう妄想にも拍車がかかる。上空からはパラパラと雨滴が垂れてきてはいたが、遠い空には切れ間が見え、雲の間から陽光が注ぎ始めているのを確認できる。

こういう、雨と晴れの合間の天気が、個人的にはいちばん好きだ。

雨がレンズの役目を果たすのか、木々や建造物の輪郭線が際立ってくっきりと見え、ちょっとだけ視力が復活したのでは……と思わせてくれたりする。

「もしかしたら、虹が出るかもな」

そんな予感がワクワクに拍車を掛け、馬を制御するニーグリップに一層の力がこもった。

「よーし。もっと飛ばして、遠くへ行ってみるかな!!

何が起こるのかわからない開拓時代末期のアメリカ西部ではあるが、馬に乗っていさえすれば、たいがいのトラブルを回避できると言っていい。なんたってこの時代には、スピード違反も渋滞も、あおり運転もないからな。その代わり信号も中央分離帯も存在しないが、人々はどーぞどーぞの精神で譲り合いながら、平和な馬社会を生きている。物質に満たされた現代社会は確かに便利でありがたいが、何もかもが足らないこの時代も、それはそれで幸せだったんじゃないかと思う。

「いいねえ~……。この、道がスカスカの交通事情だったら、重大な事故が起こりようも

そこまで言いかけた俺に、思いもよらなかったことが起こる。

ドカーーーーーーン!!!!

「え!?」と思ったとき、俺は空中にいた。おっかしいな……。0.2秒前まで馬にまたがっていたはずなのに……。人間とは不思議なもので、1秒以下のわずかな刹那でもいろいろなことを思考することができるのだ。俺はこのとき、

・ナゼ俺は空中にいるのか?
・馬はどこいった?
・腕と脚が変に曲がっている気がする
・着地はできるのか?

これだけのことに考えを巡らせていた。もしかしたらこいつが、走馬燈というものなのかもしれない。

しかし、すぐにその瞬間はやってきた。

ズッシャアアアア!!! ゴロゴロゴロゴロッッ!!!

信じられない勢いで、俺の身体は地面に叩きつけられた。小雨がパラつく中だったので、一瞬で泥だらけである。

「なぁ!!? な、何が、なぁ!?」

焦りとも困惑ともつかない叫び声を上げながら画面を凝視すると、転がった自分の分身の後方に、2頭の馬とひとりの人間が倒れているのが見えた。それを見て俺は、自分の身に何が起こったのかを正確に理解したのである。

どうやら俺は、どこぞの馬乗りと交通事故を起こしたらしい。それも、互いにスピードを出した上での壮絶な正面衝突で、教習所で免許更新のときに見せられる実験映像よろしく、激しく吹き飛んだようだ。衝突のエネルギーはすさまじかったらしく、馬はなかなか立ち上がれず、騎手は……ピクリともしていない。

「うわーーー!! やっちゃった!!!」

倒れている人のもとに駆け寄りながら、俺は考えた。

(いまの事故……。か、過失割合はどれくらいなんだろう……?)

振り返れば、ツーリングに浮かれた俺は間違いなく、わき見運転をしていた。そして事故現場を見ると、片側一車線の左側で衝突は起こっているようである。開拓時代末期のアメリカ西部が右側通行だったのか左側通行だったのか知らないが、現代のアメリカの交通事情を鑑みるとおそらく、当時も右側通行だったのだろう(クルマから見て、ね)。て、ことは……(((;゚Д゚)))

「左側で事故が起こっているということは……俺がセンターラインをはみ出して、対抗馬に正面衝突したってことか(((;゚Д゚)))

俺はガクガクと震えながら、倒れている騎手に声を掛けた。「も、もしもし。大丈夫ですか?? もしもーーーし!

しかし、反応はない。

(´ーωー`)シーーーーン……

ち、ちんでる……(((;゚Д゚)))

さあ困った。業務上過失致死傷だ。

ヤバイヤバイとうろたえながらも、俺は頭のどこかで冷静だった。憐れな遺体が横たわっているのは、道のど真ん中である。このまま放置してしまったら、馬や馬車に轢かれてしまうのは目に見えている。そこで、

「せめて、森に安置してやろう……」

そう思って、ヒョイと遺体を担ぎ上げたところで気が付いた。

さっきから事故現場の脇に停車し、俺の一挙手一投足を見つめていた馬車の男の存在に。

なんだか、非常に感じが悪いぞ。頬を伝う冷たい汗を感じながら、

「え、えっと、これは5対5の過失で起きた事故でして……」

なんて言い訳を考えていたところで、いきなり馬車の男がわめき出した。

「ひ、人殺し!! こいつ、人殺しだ!! 俺は見たぞ!! いきなり殺しやがった!!!」

!!!!!??? ななな、何を言い出すんだオマエは!!! じ、事故だろ!? 事故だったじゃん!!!!? む、無実だ!!! 俺は殺ってねえ!!!(やっただろ) 無実なんだよぉぉおお!!!

遺体を下ろし、目撃者を説得しようと近寄ると、馬車男は癇癪を起したようにさらにわめき散らした。

ぎゃーーーーー!! 人殺しーーーー!! おまわりさんここです!!

その瞬間、画面に“指名手配”という文字が表示された。こここ、こいつ本当に通報しやがった!!!!!!

踵を返した俺は馬に飛び乗り、全速力で走り出す。こ、こんなところで捕まってなるものか。俺はまだ、捕まるわけにはいかねえんだ!!

「おおお、覚えてろよ馬車男!!!>< ぜ、絶対にゆるさないからなーーー!!!」

おまえのかーちゃんでーべそ!!>< と言わんばかりの勢いで泣き叫びながら、俺はどこまでも駆けてゆくのだった……。

おしまい……。

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